ナラティブRBA奨励賞
2018.08.302018年8月ナラティブRBA賞受賞 みはるの杜診療所 髙橋 美也子 さん
Tさんとの物語。
『またなんかうまいもん食べに行こう。』
これがTさんの最後の会話になるなんて・・・。
Tさんは北海道に生まれ、長年教師をされていた方で、厳しく、優しい先生だったそうです。北海道の冬は厳しくて長い。
だんだん一人暮らしが難しくなってきて、冬の間だけ仕方なく娘さんの住まいの仙台に住むことになったのがご縁で私たちの事業所に通い始めたのがH23年。
そこから冬の訪れとともにやってくるTさん。毎年毎年、娘さんともう一人暮らしは難しいから仙台に住もうと議論をしながらも、ご本人はやっぱり北海道が良い。
じゃ勝手にしな!そんなやり取りを繰り返して数年。H27年からは本格的に仙台に移住することになりました。それを聞いて正直複雑な気持ちでした。『ふるさとを捨てる。』私にも経験があります。
Tさんは写真も何もかもを焚いてしまい、家も全て処分して仙台に移住をされたそうです。
私が入職して初めてリハビリで担当させていただいのがTさん。北海道のこと、趣味の釣りやゴルフのこと、いろいろとお話ししました。
思えば、Tさんとの会話のネタ作りに自分もゴルフに行っていたような気がします。
うちのじいさんは弘前出身なんだよ。そんなお話しからも勝手に親近感を感じてますますTさんのことを身近に感じました。
そして、ふるさとを捨てる辛さを経験したTさんの気持ちに寄り添い、しょうがなくだけど、来てしまった仙台。だったら少しでも仙台での生活を一緒に楽しんでもらいたい。
手始めに野球観戦にお誘い。もともと巨人ファンだったTさん。でも、日ハムの本拠地が北海道になり、そこからは日ハムファンに。
東北に来てからは楽天を応援。夏には毎年恒例の野球観戦!!球場に行き、一緒に盛り上がりました。
Tさんは食べるのが大好き。ウニ、アワビ、いくら・・・お肉なら美味しい和牛、それにウナギも好き。とにかく、美味しいものを食べ、楽しいことをすることが大好き。
人生を全身でめいっぱい楽しんでいる。そんな生き方を私たちに教えてくれた方でした。Tさんのおかげで、たくさんの職員も助けられたと思います。
外食イベントを企画したら、『あんたは行かないの?』と誘ってくれ、一緒に楽しむことの喜びを教えてくれました。
そんなTさんも脳梗塞や骨折を経て身体がだんだん自由に動かなくなり・・・週3回だった利用も徐々に週6回、週7回に。
本当は行きたくないという気持ちもあったでしょうに、娘さんのことを想い、一度もそんなことは言わなかったそうです。
『娘はよくやってくれている。』ふとした時に話してくれました。
そして、『でも、娘が仙台に嫁に行くって言ったときは寂しかったなぁ・・・』そんな言葉も聞かれ、それを聞くたび、親が子を想う愛情の深さに触れ、自分も親孝行しないとなぁと思いました。
デイでは、リハビリにも意欲的で、毎日のリハビリに加えて、こっそり私たちに隠れてコソトレ開始。
また転んだら大変!!!普通なら一人ではやらないで、とか、昼シフトだけは・・・とお願いしたいところだけど・・・大変な時間帯にも関わらず、文句も言わずに見守りしてくれたみなさん、本当にありがとうございました。
体調が思わしくない日もあったそうですが、娘さんにはあまり言わず、『こうやって痛い痛い言いながら死ぬんだろうなぁ』と仲の良い方に漏らしていたそうです。
冒頭に書いたように、デイから帰る前に、『またあの店に連れてって。あそこのウニ丼が美味しかった』と呼んでくれたTさん。
私も、『もうすぐボーナスだから、じゃ、ボーナス貰ったら行きましょうね!!!』と指切りげんまん。
翌日、その日の夜中に救急搬送されたとお電話が。え?なんで?一人で歩こうとして転んじゃった?それとも何かあったの???昨日約束したばっかりだったのに・・・
きっと戻ってくるよね。私たちの願いは届かず、そのまま病院でお亡くなりになりました。Tさんが身をもって教えてくれたこと。
人生は楽しまないと損。自分だけじゃなく、周りの人もハッピーにしよう。そして、人はいつ死ぬかわからないということ。
だからこそ一瞬一瞬を大切に、スピード感を持って全力で、そして後悔のないように生きることを胸に刻んで、これからも新しい物語を紡いでいきます。