ナラティブRBA奨励賞
2018.05.012018年5月ナラティブRBA賞受賞 ケアホームいちいの杜 久保内 大介 さん
ひとつ屋根の下で暮らす母と子。
あたり前なことではありますが、お互いに障がいを患らっていると急にそのあたり前が崩れていくように思います。ケアホームには、そんなMさん親子が暮らしています。
アルツハイマー型認知症を患ったお母さん(89歳)と精神発達遅滞・小児麻痺による両下肢機能障害のある娘さん(51歳)の親子です。
いちいの杜オープン当初から、自宅がいちいへと変わり生活を送っています。
入居前は、旦那さん(お父さん)が他界後、二人暮らしをされていましたが、お母さんであるTさんが認知症を患い、進行とともに二人での生活が難しくなり、離れて暮らすことになったそうです。しかし、Tさんは、娘であるSさんが見えないと不安となり落ち着けなくなることが多く、いつか二人で暮らせるところがあればと、3か月のずれはありましたが、平成22年5月からひとつ屋根の下で暮らすことができるようになりました。
お二人とも個性が強いので、いろんなことがあったそうですし、今でもいろんなことがそれぞれにありますが、お二人の生活の様子からは、あたり前の親子の光景がそこにはあります。
お母さんがインフルエンザに感染し、居室に行くことをSさんに一時やめていただくようにお願いしていましたが、心配でスタッフにばれないようにと何度も行き、Sさんもインフルエンザに感染したということがありました。
スタッフが気づけていない娘さんの着衣の乱れを、呼び寄せて整えてくれるお母さん。
娘さんが、ホームでの生活の中でちょっと違うかなと思うことや、スタッフに対して間違っていると思うことを言っているときに、注意をされるお母さん。
ストレスを感じているときなど、お母さんに話しかけることで発散している様子がみられる娘さん。
若干強引なところもありながらも、通所先で作成したものをうれしそうに見せる娘さん。
隣で折り紙をする娘さんを気遣い、そっと手を差し伸べるお母さん。
お母さんの誕生日に手紙や自分の作ったものをプレゼントする娘さん。
先日は、母の日にプレゼントがしたいと、スタッフとカーネーションを選んで買ってきてプレゼントする娘さん。
一度、いちいの杜で生活することについてお二人に尋ねたことがありました。
その時の答えはお二人とも、「一緒にいてあたり前じゃないの、親子だもん」という言葉でした。
親子で暮らすということは、障がいのあり、なし関係はありません。いろんな状況で一緒に暮らすことができない人がたくさんいることはわかっています。しかし、簡単にお互いに障がいだからという理由で離れ離れになるのは違うなと思います。
お母さんは言っていました、娘と離れたらさみしい。元気でいてくれればいい。娘が悪いことをしたら注意して。
お互いに障がいによって、うまく表現できないところはありますが、親が子を想う気持ち、子が親を想う気持ち、人それぞれありますが、あたり前のことが継続していけることは、あたり前にいいなぁと感じています。
親のことをうまく使う(言葉は悪いですが)なんていうこともありますよね。
そんなこともありながら、Mさん親子の生活は送られています。
私たちは、そんな親子の生活に、そっとおじゃまさせていただいています。