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ナラティブRBA奨励賞

2018.05.01

2018年5月ナラティブRBA賞受賞 介護老人保健施設希望の杜 岩渕 文智 さん

Sさんとの出会いは2年前、杜の家ゆづるの通いと泊まりを利用しながら在宅生活を送っておられましたがパーキンソン病の進行に伴い自宅での生活が難しくなり希望の杜へ入所となりました。
 昨年11月に出身地である鳴子の特養への入所が決まり、退所時期をご家族と話し合っていたところ右乳癌と診断されました。外来で手術をする予定でしたが、手術当日に誤嚥性肺炎となり入院となりました。面会に行くと点滴を抜かないようにとミトンの手袋を着けられベッドに横になるSさんがいました。帰ろうとする私に、「連れてってけさい」と震えたか細い声で何度も呼び止める姿を見て胸が痛みました。
 入院期間中、パーキンソニズムの進行によって食事摂取も数口程度となり、体力的に手術に耐えられないということで誤嚥性肺炎の治療のみを行い12月11日に再入所となりました。退院日に病院にお迎えに行くと、娘さんから「カップラーメンが食べたいなんて言ってるんですよ」という話があり、私がSさんに直接「カップラーメン食べたいのですか?」とお聞ききすると笑顔で「うん」とおっしゃったので、続けて「何味のカップラーメンですか?」とお聞きしたところ「みそ」ということでしたので、希望の杜に到着と同時に管理栄養士の小川さんに伝え、昼食にみそ味のカップラーメンをSさんが食べられる形態にして召し上がっていただきました。召し上がった量は数口でしたが、その時のSさんの笑顔と娘さんからいただいた「入院していた時と違ってとても安心した表情になりました。希望の杜に戻りたかったんだと思います。」という言葉と涙が今も忘れられません。
その後、徐々に摂取量が増えていき1月末には点滴を併用しなくても良い状態にまでになりました。この状態がいつまでもつつけばと思っていましたが、3月末に未治療であった乳癌の進行により胸水が貯留し状態が一気に悪化しターミナルの状態となり、息子さん、娘さんのご意向にて希望の杜でお看取りすることとなりました。
 亡くなられるまでの1週間、帰宅しようする遅番のスタッフに「さびしい」「帰らないでほしい」というSさんの言葉を聞いた夜勤のスタッフが「大丈夫ですよ。ひとりじゃないですよ。私がそばにいますよ。」と伝えている場面、亡くなる前日まで大好きだった甘酒を飲んでおられた場面、スタッフが痛みはないか息苦しさはないかこまめにSさんに聞いている場面、ゆづるのスタッフさんが面会に来て声を掛けている場面、息子さんや娘さん、お孫さん達が寄り添っていた場面様々な場面が頭に焼き付いています。どの関わりに理念に通ずるものがあったと思います。
 Sさんは息子さんの到着と同時に旅立たれました。きっと息子さんに見送ってもらいたかったのだと思います。いつ面会に来ても表情を変えずいた息子さんが泣き崩れ、Sさんの胸の中で「お母さん、みんなに良くしてもらえてよかったな、幸せだったな」と何度も声を掛けていた場面は一生忘れることはないと思います。
 息子さんの言葉を聞いて、私たちは最後までSさんへ寄り添いつながることができていたのではないかと感じました。これからもご利用者さんといつもの日常の安心感、幸せ、季節や時の移り変わりを感じ、互いにつながっていることを分かち合えたらと思います。

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